「のびのびと 楽しそうにやってるんだな イガラシは。」
「・・・・!」










・    ・     ・       答えは その手の中に     ・     ・     ・






この先へ 進もうと
僕らはまだ 足掻いている
やり方は体が 憶えている
でも
心が 素直じゃないんだ





「何か言われたか?」
余程、動揺していたのかも知れない、振り向くと、気遣う表情の倉橋先輩が立っていた。
「いえ・・・」
何だろう、野球が楽しい、そんな当たり前のことを、何故あの人が言うのだろう。なぜ、自分が罪悪感を感じなきゃいけない?
・・・少し、苦しそうな声、だったと気付く。
しょうがねーな、というふうに先輩は頬を引っ掻いた。
「嘘をつくのは下手クソでも、後輩に感情をもらすようじゃな。」
あの人を否定されたようで、むっとして言い返す。
「いいんですよ。本人も気付かないまんまでこっちばかり気遣われて笑ってられるより、ずっとましですから。・・野球部へ入る前の谷口さんみたいなのは、ゴメンです。」
「そうか。・・そうだな。」
ムキになったのが可笑しかったのか、倉橋さんは少し口元が緩んだ。
「何かあったんですか?」
「さあな。」
「さあなって」
「言葉に出来るほど器用な奴じゃないからな。」
「・・そんなもんなんですか。」
不服だ。そんな答えが欲しいんじゃない。
「まあ、俺達3年は、色々決めなきゃならない時期も近いんでな。悩むことも多いんだろう・・で、何て言われたんだ。」
はぐらかされたまま、渋々答える。
「のびのびと楽しそうにやってるんだなって、言われました。」
ふーん、相当煮詰まってんな、とだけ倉橋さんは呟いた。



「谷口は、俺がイガラシに似てるとよく言ってたが、俺から見りゃ、おまえと谷口は良く似てる。」
「どこが、ですか。」
用心深くイガラシは尋ねる。
「目的に対して容赦ないところは、そうだな。弱いところを見せないのも。それから・・いや、もっと根っこの部分で、おまえら野球好きだな。」
「似てますか。」
「ああ。」
ややあって、イガラシは呟いた。
「それは、多分、・・俺が、谷口さんのようになりたいと願ったからだと思います。」
倉橋さんは少し遠くを見るような目をした。
「墨谷二中の連中は、お前も含めて、皆そういうところがあるな。」
あの、青葉との試合。 あの場にいたものでなければ分からない感情がある。 自分はそれを知っている。 その後の生き方さえ変えてしまうような、強烈な、鮮やかな光。



ぽんっと頭を叩かれる。
「のびのびと、楽しく、大いに結構。よし、しばらくそれでいくぞ、イガラシ」
「く、倉橋さん??」
「煮詰まってるバカタレには見せつけるに限る。」
「そ、そういうもんですか!?もっと、こう、悩みを聞くとか、何か出来ることは」
「何もないさ。 思い出せよ、イガラシ。キャプテンはいつもどうしてた?」
キャプテンはいつも・・黙々と自分のなすべきことを・・・あ!!
「な。結局、野球してみせるしかないわけさ。俺達は。」
いたずらっぽく片目を瞑ってみせる先輩の仕草に、思わず笑い声が漏れ出た。
ホントにそうだ。



グラウンドから、コーン、コーン、と音が響いてくる。
二人は顔を見合わせた。
野球やるしか、球を投げるしかやり方が分からないというのは、シンプルだけど力強い。
自分で何とかしようとしているのだろう、あの人らしい方法で。
「付き合うか。」
「そうですね。」
ニッと笑って、グラウンドに戻る。負けていられない。近づきたい。
一番あこがれた、あの人に。
















イガラシ大好きぴぽまるさんのサイトいがいがくんの絵板(妄想紙芝居?)のなかの一枚、にふと囚われてでてきたお話。
最高のチームメイトに囲まれて、高校での野球を心から楽しんでいるイガラシに、
ぽんと谷口さんが投げつけた、ちょっと突き放すような言葉。
うらやましげな響き。
何があったんだろう、どうするんだろう、と、答えを与えないまま連中を行動させてみた。


(2008.5.24追記:元になった谷口さんとイガラシ絵と、イメージぴったりの倉橋とイガラシの絵を、
無理言ってぴぽまるさんから頂いてきました。
ぴぽまるさんの絵板には倉橋とイガラシの会話もついていて、すごく素敵で、大好きなんです。)





→戻る


inserted by FC2 system